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2013.11.12

バイオロジー分野での取り組みの紹介

Kenta Oono

Engineer

大野です。寒くなりましたね。

現在バイオプロジェクトのリーダーを務めています。最近外部のライフサイエンス機関と協業に関するプレスリリースがいくつかあり、反響を多く頂きました。折角の機会ですのでPFIでのバイオ・ヘルスケア・医療分野でのこれまでの取り組みや今後の方向性について紹介をさせていただきたいと思います。

次世代シーケンサーなどを始めとして、バイオ・医療・ヘルスケア分野では蓄積されるデータ量は爆発的に増加しています。しかし、それらの解析技術は研究レベルでは数多く存在するものの、マッチングがうまくいかず、実際の現場で活かせていないケースが少なくないようです。バイオプロジェクトではこれらの分野で現れるデータに対して情報検索技術、機械学習技術を活用する事を目標として取り組んでいます。

これはPFIが開発に携わっている機械学習基盤Jubatusの将来の応用先を説明した図です。今後の適用領域としてヘルスケア分野が挙げています。我々のプロジェクトは情報検索・機械学習技術のあるべき姿を模索する取り組みの大きな流れの一つとして捉えていただけると理解しやすいのではないかと思います。

これまで様々なバイオ・ライフサイエンス・医療分野での研究研究案件に共同で取り組ませていただきました。一例を挙げると次のようなものがあります。

  • 自然言語処理を用いたレセプトデータ解析(論文
  • 機械学習を用いた創薬候補化合物の探索
  • GGRNA/GGGenome:googleライクな統合遺伝子検索エンジン(論文
  • 次次世代シーケンサー開発の協力

(GGGenomeは先日の日本バイオインフォマティクス学会(JSBi)において、Open Science Awardを受賞いたしました)

我々はもともと情報系の人間であるため、バイオ・ヘルスケア・医療分野に関する知識は本でひと通り学習できても、始めはどこを深く掘り下げていくべきなのかわかりませんでした。そのためプロジェクトを立ち上げた当初はかなり広範な分野に取り組み、それぞれの分野の専門家の方々と研究案件をこなしながら、自分たちの技術がどこに適用すべきかを検証してきました。

数多くある分野の中で、現在は再生医療分野・iPS細胞などの幹細胞技術におけるデータ活用にフォーカスをしようとしています。再生医療がどのような分野かについては、京都大学の山中教授が昨年のノーベル医学生理学章の受賞したのを契機に、様々な書籍やコンテンツがありますので、そちらをご覧頂くのが良いと思います。

私自身、再生医療分野でどのようにデータ解析を行うかについてPFIセミナーでお話しました。下のスライドはその時の発表資料です。セミナーの様子はUstreamでご覧頂けます。

再生医療・幹細胞技術にフォーカスしようとしている理由としてはいくつかの理由があります

  • これから成長・産業化が期待できる分野である
  • 医療・美容など広範な分野への応用がある
  • 日本発の技術として多くの期待が寄せられている
  • 再生医療 x 機械学習という枠組みはこれまで誰も取り組んだ事がない
  • 様々な巡り会わせで協力する方々に再生医療に関わっている方が数多くいらっしゃった

現在様々な方々との議論を通じて新しいバイオロジーを模索しています。取り組みの中で、一般的に言われるデータ活用の問題に加えて、この分野特有の難しさも分かってきました。現在PFIが取り組んでいる大規模・オンライン・分散の枠組みが必ずしもそのままの形で適用できるわけではなさそうです。

さらに、これらの技術を産業化するにはもう一段ハードルがあるようです。例えば下記の本が出版されているように、バイオビジネスの産業化は日本だけでなく、海外でも難しいタスクである事が分かります。

サイエンス・ビジネスの挑戦 バイオ産業の失敗の本質を検証する」ゲイリー・P・ピサノ著、池村千秋訳

この本はタイトルの通り、サイエンスを基礎とするビジネスのあり方を論じています。その議論の背景として、(主に米国において)バイオテクノロジー産業の過去30年間を振り返ると、バイオテクノロジー産業では一握りの(多くはこの分野で最古参の)企業を除いて黒字計上が出来ていない事、これまでの革新的な技術はその期待とは裏腹に製薬などのバイオ産業の生産性を飛躍的には向上出来ていない事などを指摘しています。

多くの産学連携がそうであるように、基礎技術の産業化には多くのギャップがあります。その要因の一つとして、産業化する技術は研究者にとっては応用的すぎるのに対し、実用化するには基礎的すぎる点が挙げられます。この橋渡しは最先端の技術を最短路で実現する事をミッションとするPFIならでは挑戦と言えるのではないかと思います。その目標を目指して技術開発に取り組んで参ります。

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