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2018.05.10

Research

「人間中心のAI社会原則検討会議」に参加しました。

Yusuke Doi

VP of Computing Infrastructure

5/8に開催された内閣府主催の「人間中心のAI社会原則検討会議」に出席してきました。

土井と申します。普段は細々とネットワークの研究を行いつつクラスタ関係とりまとめをやっています。出身大学がinterdisciplinaryなところなので、いろいろな領域に首を突っ込んでいます。そのような活動の一環で、社内のslackにAIと社会に関して考えるチャネルを作り、PFNフェローの丸山を中心として何人かの興味あるメンバーとで、社会動向のウォッチングや、必要な意見表明[1]などをしています。例えば、2017年頭に「AI開発ガイドライン(仮称)」へのパブリックコメントをPFN名で提出しましたが、そのパブリックコメントの最初のドラフトは私が書いたものでした。

そんな中、弊社丸山が掲題の「人間中心のAI社会原則検討会議」にお誘いいただきました。ただ、丸山は残念ながらこの日に外せない終日の予定が入っており、代理で土井が参加してきました。参加にあたり、PFNの意見を事前に文書でまとめるようにしたほうが良いだろう、とのことで、「『人間中心のAI社会原則検討会議』に対する意見」[2]としてまとめ、会議に提出しました。あくまで参考資料としてではありますが会議で配布されたので、こちらでもご紹介させてください。

この文書は特に何か難しいことが書いてあるわけではなく、「人工知能」または「AI」と呼んだ時にそれが何を指し示すのかを明確にして議論しないといけない、という話と、ある前提で議論した内容を別の前提に適用するとおかしなことになりますよ、という当たり前の話が書いてあるものです。

PFNとして提出した文書には、世間で「AI」として議論されている内容は主として以下の3つに分類できるのではないか? としています。

  • A. いわゆる汎用人工知能
  • B. ネットワーク化された情報システム
  • C. 機械学習システム

AとCはみなさん何となく理解されるかもしれませんが、これらを混同しているような議論も多いです。ただ個人的には、案外「AI」の文脈でBの話をされる方が多いことに驚いています。例えば証券市場のFlash Crash(自動取引による証券取引の不安定化)を「AIがもたらす問題」として挙げる方がいます。実は、今回の会議の委員にもこういう考えの方がいらっしゃいました。ただ、いわゆる単純なフィードバック制御であっても発散してしまい問題になるケースがあるのと同様、これはソフトウェアによる自動化とこれにともなう高速化、およびその影響範囲を拡大するネットワーク化に起因する具体的な問題です。PFNとしては、こういった問題をわざわざ「AI」などというあいまいな単語を使って議論する必然性はないと考えています。

また、会議の中でタイミングがなく発言できなかった内容をひとつ。「AI」が主語になった議論は個人的にはとてもおかしな議論に見えています。[3]でも書きましたが、上のABCどの定義であっても「AI」の中核はソフトウェアとして実現されます。現実の世界に何かの影響を与えるためには例外なく人間が与えたハードウェア(ソフトウェアを実行させるコンピュータ、コンピュータに供給される電源、外界と作用するためのセンサ・アクチュエータ、等)が必要です。言い換えると、どんな場合であれ「AIの性質を持つソフトウェアを構成要素として持つ何らかのシステム」があってはじめて議論がスタートします。システムには、通常「AI」とはみなされない、様々な技術や安全装置が含まれていて、それらと外界との作用の総体でシステム全体が機能します。我々が考えるべきは、このシステム総体が、人類社会とどのように調和していくかではないでしょうか。個人的には、PFNが機械学習の本質を理解して新しい学習の仕組みを作るように、社会も機械学習やAIと呼ばれる技術・仕組みの性質や限界を理解して、きちんと使いこなす、つまり社会システムの構成要素として人間がAIを主体的に位置付けることが、あるべき「人間中心のAI社会」の姿なのではないかと思います。

今回議論していて「なるほど確かに」と思ったのは、本来AIというのは知能を機械で模倣することで知能を理解しようとする研究の営みあるいはその研究分野を指すことばであった、という点です。これを、特定の機能や製品のラベルに転用した結果、現在はあいまいな単語となってしまいました。ことばは本来他者とのコミュニケーションに用いるものである以上、あいまいな単語を用いた議論では精度が出ません。いくらAIという冠をつけると見栄えが良いからといって、このあいまいさに無自覚なままAIということばにふりまわされた議論を重ねても何も得られません。この機会を有意義な成果につなげるために、引き続き社内でも議論を深めていこうと考えていますし、また議論の立脚点となるべき事実についても情報発信を続けていこうと思います。

references
[1] 人工知能技術の健全な発展のために
[2] 「人間中心のAI社会原則検討会議」に対する意見
[3] ソフトウェアとしての人工知能に関する論点整理 信学技報, vol. 117, no. 471, SITE2017-75, pp. 209-212, 2018年3月.

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