化学反応におけるDeep learningの適用

Kosuke Nakago

2019-09-06 10:57:59

近年様々な分野に対してDeep learningの応用が研究されてきています。

化学の分野でも物性値の予測モデルや、化合物の生成モデルの研究などが盛んになってきています。最近では、有機化合物の合成を行う際に必要な化学反応の予測をDeep learningで行うという試みが行われてきているのでその先行研究サーベイをしました。

サーベイ資料はこちらのSlideshareにアップロードしています。

合成経路探索 -論文まとめ- (PFN中郷孝祐) from Preferred Networks

 

問題設定:反応予測および逆合成経路探索

化学反応で、反応物 (reactant) AとBを触媒 (reagent) Cの下で反応させたときに 生成物 (product) D ができたようなプロセスは Reaction SMILES を用いると “A.B.C>>D” というように表すことができます。

 

 

ここで、 AとBとC から何ができるか? (答えはD)を予測する問題を順方向の反応予測問題と呼び、Dを作るためには何を用いればよいか? (答えはA, B, C)を予測する問題を逆方向と呼ぶことにします。

一般的に、A, B, Cを与えた時に順方向でどういった反応が起こるかは限定されていますが、ある生成物 Dを作る方法は複数可能性がある場合があり、逆方向の解析の方が難しい問題です。

例えば創薬など、目的の性質を持つある有機化合物が先に決まっていて、それを工業的に合成するためにどういった反応物を用いればいいか知りたい場合は、逆合成解析 (retrosynthetic analysis)・逆合成経路探索が必要となります。

機械学習で予測モデルを作る際、順方向の予測問題は実際にデータセットにある反応で生成物が当てられたかどうかの精度で評価することができますが、逆方向の予測問題はデータセットにはないが現実で起こりうる反応物の組み合わせに分解することもできるため評価も難しいです。今回読んだ論文では、既に知られている化合物の合成プロセスを見つけることができたかどうか?で、逆合成経路の性能評価を行っていました。

 

研究動向

従来は、機械学習を用いるのではなく、反応パターンを事前に人が定義しておいて、そのパターンに当てはまるかどうかをルールベースで計算することで反応の予測計算をしていました。しかし、この方法では以下の問題があります

・反応パターンとして事前定義したパターンの適用しかできず、複数パターンにマッチした場合の優先度決めが難しい(精度面)

・パターンのマッチにはグラフのサブグラフマッチングが必要で計算が重い(速度面)

 

そこでデータドリブンで反応を扱う取り組み、特に深層学習を用いるアプローチが考えられ始めました。

2016年頃は合成ルール等をある程度制限し、限定された合成ルールに対して機械学習を適用するといったアプローチが主でした。(上図、一番左側)

これまではそもそも研究用途に使えるデータが整備されておらず、一部の研究機関のみがClosedで研究しているような状況でしたが、最近 アメリカのパテントから化学反応を集めて整備した、USPTOデータセットが公開され、順方向の反応予測に適用されました。

データセットが公開された2017年頃から一気に、Deep learningの適用により順方向の予測精度をあげる研究が盛んになってきました。(上図、真ん中・右側)

現在、2通りのアプローチが競争している状況です。

1.分子をグラフとみなして Graph Convolutionモデルを用いるアプローチ

2.分子をSMILES記法の文字列で表現してNLPの分野で発展した自然言語処理モデル(seq2seq、Transformer)を用いるアプローチ

(それぞれ手法の詳細は割愛します、SlideShare でご覧ください。)

 

どちらのアプローチも高精度で反応を予測できるようになってきており、すでに化学研究者よりもきちんと反応を予測できるという報告もあります (下図は Jin et al. より)

 

現時点では MolecularTransformer という自然言語処理側のモデルがSoTAを達成しているようです。IBM RXNとしてWebサービスでも公開されています。

上記のように順方向の反応予測は精度が向上してきており、今後の課題・発展として逆方向経路探索への適用や合成可能性を考慮した生成モデルの研究などがあげられます。

 

さいごに

今回紹介したような領域では、反応・合成の知識(化学側)と研究スピードの速いDeep learningの最先端の知識(コンピュータ側)双方を深く理解する必要があり、画像などの領域と比べるとまだ参入者がそれほど多くない印象です。

しかし、徐々に論文や公開実装も出てきており、このような領域でもDeep learningの技術優位性がでるかどうかの研究はこれからどんどん盛んになっていくのではないかと感じています。

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