技術と時機

岡野原 大輔
リサーチャー

2014-10-21 09:55:34

2000年前後、クラウドという言葉が立ち上がった時、クラウドビジネスを立ち上げた企業の多くは失敗しました。
(例:opsware 彼らはその後システム運用ツール提供で生き残ることができました)。
クラウドという言葉はそれ以降あまり聞くことはなくなりました。2006年GoogleのErick Schmidtがクラウドという言葉を再登場させ、AmazonがAWSを提供開始します。それ移行クラウドは爆発的に普及し、ITの戦場は全てクラウドに移行しつつあります。
(IBMですら、半導体部門を売却しクラウドに移行できるかに社運をかけています link
自社運用やDC運用をしている企業もまだ多く存在しますが、パブリック・クラウドを利用している企業の競争力は増すため、今後10年ぐらいを考えるとパプリッククラウドの影響力はさらに増していくと考えられます。

IoTという言葉も1999年から存在します。私自身も何回かIoTパネルディスカッションに参加したことがありますが、皆、口を揃えて、概念は分かるが、まだ時期尚早だし、そもそもどのように儲けるのか分からないと話していました。私もその一人でした。弊社の西川も今年の講演会でIoTに注力するといった時、いまさらIoTか?と言われたといいます。
しかし今年に入りIntel, Cisco, Google, Apple, MicrosoftらITの巨人たちが急速にIoTに舵を変えてきています。この波はスマホの時と同様のものになるかもしれません。

私自身も過去に何度か「時機」というものを痛く経験しました。

2010年にPFIは電通とXappyというサービスを始めました。ウェブをザッピングして視聴するというサービスであり最適なニュースやウェブを見つけ出しすというサービスです。その当時はiphoneが普及し始め、ipadが出始めた頃で、今がタイミングだろうとサービスをローンチしました。Xappyはウェブ先読みをしたり、ニュースのコンテンツやユーザーの視聴行動を解析し(機械学習も使って)ユーザーに配信するというサービスでした。
コアなユーザーはそこそこいたが一般に普及することはなくサービスは離陸しませんでした。スマホが爆発的に普及したのはその1年後でした。一方で今のSmartNews, Gunosyはここしかないというタイミングで離陸し爆発しました。それより前、後に出たサービスはこの二社に追いつくには相当な努力が必要だと思われます(SmartNewsの浜本さんはその頃crowsnestを提供し、その後スマホ向け&マスに情報提供すべきだということでsmartnewsに舵を切ります)

ニューラルネットという技術は1960年頃からありました。しかし機械学習の世界はSVMやCRFといった”実用的”な技術が中心となりニューラルネットはどちらかというと素人が触れてはいけない技術でした。
しかし、2006年以降の深層学習の波は、機械学習の考え方をほぼ変えてしまいました。マルチタスク、マルチモーダル、スケーラビリティ、様々な部分で深層学習は既存の手法を凌駕しています。
そしてその波に乗った人たちは他の人達が追いつけないところまで進んでいます。

数年前、モバイルサービスで非常に好調な企業の方と話す機会がありました。その当時はガラケーが主流で、「スマホ対応しないんですか」と聞くと「そうだと思うんですが、今の殆どのユーザーがガラケーなので、ガラケーに注力しています。スマホのユーザーが増えてきてから考えます」と話していました。その企業はスマホの波に乗り遅れ、苦戦を強いられ続けています。

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「私達もあの技術を持っていた。技術では負けていない」
「彼らは運がよかったんだ」
「そうだとは思うんだが、今の顧客に聞くと○○なので、、」
「私達もxxを始めました」

タイミングが早すぎたか遅すぎたかどうかを見極めるのは専門家ですら困難です。しかし十分確度が高い情報を集めている間に勝負が始まることがあります。
一方で気づかないうちに勝負が始まっていることがあります。例えばAWSは、実際にビジネスを始める前に彼ら自身でAWSインフラを利用しクラウドサービスを洗練させていました。市場に投入した後、他のプレイヤーも追従したが追いつくことはできていません。また、突然成功した技術もよくよく聞いてみるとその数年前から試行錯誤していることが分かります。

まとめ

(1)時機を見極めるのは専門家でも難しい。しかし勝負をしないと舞台に上がることすらできない。

(2)成功してからの後追いは自分でゲームを変えられるぐらいでないと難しい。しかも成功している方は
100倍ぐらいの差はあっという間につけることはできる

(3)成功する時機のスイートスポットは半年〜1年である。それより前より後でも成功することは難しい

(4)一方で準備は数年前からはじめていなければならない

100倍で考える

岡野原 大輔
リサーチャー

2014-10-06 15:21:11

私が最近強く印象に残った言葉が10倍で物事を考えるです[wired]。
これが私の記憶の中で拡大解釈され、今は100倍で物事を考えるようになっています。

「100倍」というのは一見すると不可能なことの例えのように思えますが、決してそんなことはありません。

どの程度現実的か例をあげて考えてみましょう。

DWH(DBと考えても良いです)という分野を考えてみます*1。

*1 この分野は専門家ではないのであくまで外から見ている素人の意見です。

2014年10月現在 Google BigQueryは1GBの保存に月あたり 約3円、クエリ時1TBスキャンあたり500円という価格設定です。基本的なDBの操作は全部できて、その上でユーザーが自由に関数を定義できて、画面とつながって結果が数十秒で返ってきてです。これはこの分野を知る人にとっては衝撃的な価格です。

1昔前、DWHの世界では製品が数千万から数億円という範囲で売られていました。別に価格を不当に高く設定しているわけではなく、提供するためにそれだけのコスト(研究開発費、ソフトウェア開発費、サポート費など・・)をかけているため、このような高価格にベンダーは設定し、また他にできる製品もないためこの値段設定でもどんどん売れていました。

その後、Hadoopをはじめとして様々なOSSやそれを元にしたサービスが登場し、DWHの価格は急速に下がっていきます。Amazon Redshift(名前からして、高価格な赤色の製品を意識していると思います)がでてきた時、これはすごいのがでてきたと思った記憶があります。しかし現在のGoogle BigQueryはそんなRedshiftさえ一昔のものと思わせてしまうような機能、価格、先見性(配列を自然に扱えたり、許可さえあれば違うユーザーのテーブルとJoinできたりするなど)があります。

このDWHという世界では10年ぐらいのスパンでみれば1万倍以上の価格性能比の改善がみられました。おそらく今後もAmazonとGoogleの巨人たちが競争する限りコストは下がり機能は向上し続けるとみられます(囲い込むため殆ど無料に近いところまでいくのではないかとも思います。)

では、なぜ100倍のようなスケールでの変化が可能なのかを考えてみましょう。

ビジョナリー・カンパニー2という本で弾み車の例がでてきます。
弾み車は一度回し始めると惰性である程度は回るような車です。なので小さな力を同じ方向に与え続けると時間はかかりますが巨大で重い弾み車であっても高速に回すことができます。
企業や製品の中でも全く同じことが言えます。同じ方向に小さくても力を継続的に与え続けることで、外からみるといつの間にか革新的な変化が起きているように見えるのです。100倍という差も小さな変化の積み重ねで達成されるのです。

それでは、具体的にどのくらいの改善を積み重ねられれば100倍を達成できるかを定量的に見積もってみましょう。目標としている性能を1日あたり1%向上できるとします。1日目には1.01倍、2日目には1.01 * 1.01 = 1.0201倍です。1%を加えるのではなく、掛けるところに注意してください。

このペースで100倍の性能向上を達成するにはどれだけの時間が必要になるでしょうか。これは私自身計算して驚いたのですが、たったの460日です。週5日でやったとして約2年です。毎日1%改善すれば、2年後には100倍の差になって現れます。(この別な説明として収穫加速もありますが、ややこしくなるのでこれはまた別の機会に)

方向を明確に定めてそこに集中して弾み車を回し続けることで加速的に改善することで100倍のスケールで改善することができます。ここにコツコツ努力を積み重ねる大切さがあります。

この事実を受け入れたとして、いくつかの話題を考えてみましょう。

(1) 人、組織について

まずは改善し続ける人、組織とそうではない人、組織との差についてです。改善がもし達成できるのであれば最初のパフォーマンスというのはそれほど重要ではなく、改善し続けられるのかが重要なように思えます。改善できる場合、そのような人、組織は指数的に改善していきます。

(2) 改善と結果の関係

改善するといっても、方向が間違っているといくら改善しても役に立たないものができます。
これが特に難しいのは、最初は改善が顧客の満足度に直結していたのが、ある時点から改善が顧客にとって改善が許容できる誤差になってしまう点です。いわゆるイノベーションのジレンマの根っこもここにあります。

改善による差別化ができなくなると、改善を必要としない(例えば研究開発部門を持たない)企業が低コストで真似できるようになり、いわゆるコモディティ化が起きます。その結果、差別化が価格面でしかできなくなり利益が急速に悪化します。このような現象は過去より繰り返されてきました。昔は繊維、今は家電、PC、そして直近ではスマホなどでしょうか。

基本的に「大きくなるだけ」しか差別化できなくなるようになったら、その分野はコモディティ化しはじめていると思います。

(3) スケールメリット

この話は少し長くなります。

0から1を生み出す発明とは違って、改善の場合は(人的)資源を投入すれば達成できる場合が多く、いわゆるスケールメリットが効くという特徴がみられます。

国内だけや特定の業種向けの製品・サービスが最初は成功していたのが、(参入障壁が無い限り)時間をかけてみれば必ず巨大な資源を持つ企業がやってきて、最初は見劣るいけていない製品をスピード重視で出して宣戦布告をし、これならまだ気にする必要はないと思っているうちに、ものすごい勢いで改善を繰り返しあっという間に追い抜いて駆逐されるというのを見てきました

そのため、中小企業は(大企業からは魅力的にはみえない)ニッチな市場を狙っていない限り、生き残ることができません。

具体例を出してみましょう。

1990年代後半から2000年代はじめにかけてMicrosoftはPCの世界の覇権を握っていました。新しい市場が生まれ、そこで生まれ育った企業がでてきて次のMicrosoftになるのではと期待されるたびに、ものすごい速さでMicrosoftはそこに資源を投入し(ある場合は有力企業を買収した上でそれを起点とし)、中小企業では太刀打ちできない改善スピードを持ってしてそうした脅威を早いうちに叩いていきました。
このへんの話は例えばNetscapeがどのようにMicrosoftに徹底的に壊滅させられたかはその当時のNetscapeの中心人物だったHorowitzのにその時の様子が載っています。また、Internetの可能性に気づいたゲイツがいかに素早く対策をとったかについても現在は広く知られています。
実際2000年前半の頃までは、Microsoftにかなう企業はもうでてこないだろうと思われました。それほどMicrosoftは巨大でありかつ俊敏であったのです。

しかし、1998年にGoogleが誕生しMicrosoftからは(その当時は)魅力的ではないウェブ検索という分野で成長し始めます。GoogleにはMicrosoftに叩き潰されて来た人たちが多くいたので、どのようにしたら勝てるのかを考え抜いていました。Googleは検索連動型広告、コンテンツ連動型広告が莫大な収益をあげることをIPOするまで隠し続け、その間に自社の基盤や組織を育てあげ、想定されるMicrosoftからの強烈な攻撃を跳ね返すことができるほどまで成長することができました。

その後どうなったかについてはみなさんご存知の通りです。
一方でGoogle自身もその後FacebookにSNS、AmazonにCloudの分野では資源を投資しても追いつかない状況まで許しています。当時Google CEOだったシュミットは、なぜ対策を打てなかったのかを「忙しかったから」と答えています。実際大企業で巨大なビジネスを動かしながら、新しい芽に目をくばることは想像以上に難しいことだとは思います。

このようにスケールメリットが成立する世界で勝つには、成長する市場の中で大企業が気づかないうちに育ち、後で大企業が資本を投下して猛攻してきても追いつかないようにぶっちぎらなければなりません。

ぶっちぎることができなければ、ある程度大きくなってもその後全てとられてしまいます。ほどほどで生きるということができないwinner-take-allの世界です。

今は、Google, Amazon, Appleの巨人達が世界をつぶさに見張っています。しかし、歴史は一時期の覇者は次の覇者になることはできないことが多いことを示唆しています。大型コンピュータ、ミニコン、PC、スマホ(クラウド)へ。そのたびにプレイヤーは変わってきます。チャンスが無いわけではありません。彼らに勝つには彼らに気付かれないように次の市場でぶっちぎる必要があります。

(そして私達はPreferred Networksという会社をこっそり作りました。)

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この変化が激しい世界では10%の改善ではなく10倍、できれば100倍の改善を目指し、そして100倍になった世界はどのようになるのかを想像することがとても大切です。今のデータセンターがチップ一つに収まるとしたらどうなるのか、カメラが人よりも高精度に人や物を認識できたらどうなるのか、プログラマの人口が今の100倍になり、Word, Excelを書いている人がみなGoやSwiftを書くようになったらどうなるのか(その先には機械がプログラミングをするようになる世界がありますが)、そうした世界を想定し、その方向に向かって進めていけるかどうかが重要となります。

10年後の世界を考える人はクレイジーと思われるぐらいがちょうど良いぐらいなんだと思います。